閃輝暗展(音楽編その2

ラヴェル作曲:組曲『鏡』より「悲しき鳥」


迷いの森の暗闇で、鳥はそこから抜け出すすべを持たず、ただただ悲しく泣きながら闇雲に右往左往するばかり。
まるで、人麿の歌のような孤独。周りの誰にも観えない幻を、ひとり暗闇で視る絶対の孤独。

 あしびきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む 

ラヴェル本人の演奏

私の閃輝暗点(11/1/22付)より

まず焦点に、針の先が太陽を反射しているようなプラチナ色の閃光がでます。その極小の光は少しずつ大きくなりジラジラと輝き始めます。さらに域を広げながら陽炎のように揺らめき、どんどん大きくなってドーナッツ型になり、さらにゆっくり大きく拡がって視界を妨げます。

ドーナッツの穴の中央は真っ黒か深紫か、反対色の黄色も含まれているような、チカチカと銀色の星が瞬いているような、太陽を直視してしまった時の幻惑、残像のようです。

しかし、ドーナッツが大きくなるにつれて幻惑の穴も大きくなり、晴れ上がってきて現実の景色を判別できるようになりますが、穴の真ん中には真っ暗い点が残ります。

ドーナッツの円はどんどん拡がっていきます。大きくなるほどに、真円ではなく不定形な円というか輪になっていきます。輪は四角と三角で構成されているようで、プレデター光学迷彩のような透明感のある銀色っぽい輝きを放っています。

鏡のモザイク、水銀の膜、ひび割れた硝子、雲母、ブラウン管に水滴がついた時の屈折、水の底から見上げた太陽、そのような光です。

輪を構成する四角と三角の輪郭はギラギラと滲んでいるので視界を遮りますが、輪の外と、輪の内(穴)の暗点以外の部分は見えています。ギザギザの光の輪はどんどん拡がり、数十分後には視界から出て行き、閃輝暗点は終わります。

ラヴェル組曲『鏡』は5曲で構成されています。その2曲めの「悲しき鳥」は、上に引用した私の閃輝暗点とほぼ同じ物のように、私には聴こえます。

冒頭、針の先ほどのキラリから始まって光の輪が拡がり、視界の縁から抜けて行くその時間の経過がそのまま音楽に成っているとしか、もう思えません。

私の閃輝暗点には羽や鳥のイメージはありませんが、芥川が『歯車』の中で描写しています。

三十分ばかりたつた後、僕は僕の二階に仰向けになり、ぢつと目をつぶつたまま、烈しい頭痛をこらへてゐた。すると僕の瞼(旧字体/まぶた)の裏に銀色の羽根を鱗(うろこ)のやうに畳んだ翼が一つ見えはじめた。それは実際網膜の上にはつきりと映つてゐるものだつた。僕は目をあいて天井を見上げ、勿論何も天井にはそんなもののないことを確めた上、もう一度目をつぶることにした。しかしやはり銀色の翼はちやんと暗い中に映つてゐた。

嗚呼、間違いなくこれだって思うのです。

また、鳥のイメージとしてはヒルデガルト・フォン・ビンゲンの幻視(閃輝暗点のみでは無いかもしれませんが…)が本人が絵師に描かせています。いかにも中世の宗教家らしい絵柄になっているので、芥川の文学とはやや離れますが、私の閃輝暗点とは構造的には似ています。私はそれを鳥の羽とは形容しないだけで。

こちらからお借りしました。