野生のみぃみぃ
先月の今頃、みぃみぃ♂が亡くなりました。17歳でした。
みぃみぃはひと言で表すと、鈍重なコでした。およそ猫とは思えないほどノロくて。食にもほとんど興味がなく、高い所に登ったり、獲物を追ったりなどはしたことがなくて。
私とうまくコミニュケーションできるようになるのに何年かかったかしら。自分の名前を覚えるのに10年くらいかかったかもです。本名はブラックタイガーエビータ、これは長すぎですから、みぃみぃは全然、知らないままです。
赤ちゃんの頃はお風呂が大好きでした。一緒にお湯に浸かったり、洗面器のお船に乗ってどんぶらこしたり。そんな時、ポーちゃんが「猫をお風呂に入れるにゃ〜うぎゃ〜!」て怒ってやって来て、首根っこを噛んで連れ去って行ったものでした。
子猫の頃、ピアノの中に入り込んでレッスンを邪魔してくれたことがありました。変な音がするのでちょっと手を止めたら、中からよろよろと出てきました。それ以来、TVからでも「華麗なる大円舞曲」(たとえオーケストラヴァージョンでも)が鳴り出すと、オロオロして逃げ惑うようになりました。猫が音楽を憶えられることに驚きです。
うちの三匹はみなそうですが、みぃみぃも全くのマンション猫で、お外へは病院に行く時以外は出たことがありませんでした。特にみぃみぃは、若い頃にベランダでサボテンを踏んで以来、ベランダは外界、恐ろしい場所になってしまい、それ以来二度と足を踏み入れませんでした。
ここ数年は物凄く言葉を解すようになり、知恵足らずじゃなくて知恵遅れだったんだなって思っていました。ポーちゃんが亡くなってからは高い所(ボスの座)にも上がってみてましたし、十年以上、カリカリしか食べなかったのに、缶々や人の食べ物にもやっと興味を示すようになってました。なんて遅いこと。でも、そのお陰で歯がとても綺麗でしたけど。
そんな風に、およそ野性的ではなかったみぃみぃが、亡くなる24時間ほど前の真夜中に、禁断のベランダへよろよろと出て行きました。その背中は威厳に満ちていました。
その日のお昼には、登ったことのないキッチンの調理台に登りたがるので抱っこして上げてやりましたから、もしかしてこの家の中で自分の行ったことのない場所を探していたのではないかと思ってました。
夜、私が寝支度をしている時、窓の前でじっとベランダを見ていましたので、やはり死に場所を探しているのではと思い、窓を開けておいたのでした
懸命に最後の力を振り絞ってベランダへ出て行ったみぃみぃを引き戻してはいけないと思い、追いかけるのを我慢して布団の中からこっそり見ていました。偉いねみぃみぃちゃん、誰にも見えないところで死にたいんだねって、そう思いながら私は、息を引き取るその時に立ち会えないことを覚悟しました。
でも、30分ほど経った頃か、やっぱりそこで死ぬのはいやだったらしく、またよろよろと部屋に帰ってきました。ちょっとだけ野生を見せてくれたみぃみぃ。泣けるやら、そのへなちょこさが情けないやら、悲しいやら可笑しいやら悲しいやらほっとするやら、なんやらかんやら。
夜が明けて、陽のある間はまだ自力で動いていましたが、もう内臓が動いてはなさそうで水も飲みません。自律神経もうまく働かなくなっていたようで、瞬きが出来ず大きな目を開きっぱなしでした。
最期は、お気に入りのサイドテーブルの上、お気に入りのベッドに寝付きました。みぃみぃちゃん、ハーイして楽しかったねぇ、幸せだったねぇって声をかけたら、開きっぱなしの目に涙がいっぱい溢れてきたように見えました。
どこが痛いとか苦しいというふうでもなく、潮が引くような、静かで美しい死に方でした。